奥羽368号の特記すべき特徴
 紫黒米として、強稈多収で、加工用に適する


農林登録する理由
 「奥羽368号」と同じく紫黒米特性を有する品種としては「朝紫」が平成8年度に命名登録され、着色食品素材として広く普及している。また、この「朝紫」は着色酒(古代酒)用の原料にも用いられている。しかし、「朝紫」は小粒の糯種であり醸造用には適していない。このため、「朝紫」で着色酒を生産している業者からは、着色酒に適した大粒の紫黒米梗品種を育成して欲しい、という要望が出されていた。「奥羽368号」は,大粒の紫黒米梗種であり、こうした要望に応えるものであり、試作した結果では良好な着色酒が得られている。また、「朝紫」では混米により赤飯にすると、糯性の強い特徴がでるが、「奥羽368号」は粳種のため、通常の粳種の食感が得られ、着色米飯用にも有用である。また、「奥羽368号」は「朝紫」より10%以上多収であり、収量性も高い。そこで、糯種の「朝紫」とは違った紫黒米利用に応え、新形質米の利用を促進するため、「奥羽368号」を命名登録(農林登録)し、普及を図りたい。


来歴
 「奥羽368号」は、1990年に東北農業試験場水田利用部において、多収性粳型の紫黒米を目標に、紫黒米の「東北糯149号」を母、多収性の「奥羽331号」(後の「ふくひびき」)を父として人工交配された組合せから育成された系統である。1991年にF1個体を圃場で養成した後、1992年はF2,F3集団を熱研(現国際農研)沖縄支所に世代促進を依頼した。1993年は、F4集団を本田で養成し、個体選抜を行った。そしてF5世代以降、系統育種法により選抜、固定を図ってきた。
 1995年には「95UK-22」、1996年は「96UK-13」の系統名で生産力検定試験、特性検定試験を行い、1997年にF8世代で紫黒米粳系統として「奥羽368号」の系統名を付け、次世代プロジェクト研究の中で加工、利用適性を検討すると共に、希望する関係県に配布して地方適性を検討してきた。2000年の世代は雑種第11代である。


形態的特性
 「奥羽368号」は、移植時の苗丈は「朝紫」と同程度に長く、葉色は「朝紫」よりも濃い。稈長は「朝紫」よりも短く“やや短”である。穗数は「朝紫」よりやや少なく、穂長は長く、草型は“穂重型”である。稈の太さは“やや太”で、稈質は「朝紫」並の“中”である。成熟期の止葉の直立程度は“立”で、草姿は片親の「ふくひびき」に似て良好である。粒着は「朝紫」より密で,極少程度に短芒を生じ、ふ先色は“紫”,穎色は“黄白”で,脱粒性は“難”である。幼苗期から成熟期にかけて「朝紫」と同様に、葉縁、葉舌、葉鞘、稈、節、ふ先色が紫色を呈し、一般の品種と容易に区別できる。


生態的特性
 「奥羽368号」は,出穂期、成熟期とも「朝紫」、「あきたこまち」と同程度で、育成地では“早生の晩”に分類される。耐倒伏性は“強”で、収量性は「朝紫」より10%程度高い。いもち病真性抵抗性遺伝子型は“Pi-b”と推定され、圃場抵抗性については葉いもち・穂いもちとも不明である。白葉枯病抵抗性は“やや弱”である。耐冷性は“弱”で、穂発芽性は“やや難”である。


品質・食味・加工特性
 「奥羽368号」は、バリ島在来種( BP-1)由来の紫黒米特性を持ち、玄米は果皮がアントシアニン系の濃い紫(暗紫)色を呈し、真っ黒に見え、これが本系統の重要な特徴である。玄米の黒さは「朝紫」にやや劣る。
 「奥羽368号」は“粳種”であり,“糯種”の「朝紫」とは異なる。玄米の形状および粒大は“やや大”で,粒重は「朝紫」よりも重い。紫黒色が無くなるまで搗精したときの搗精歩合は84%で「朝紫」より高い。また完全に搗精したときの白米は一般の粳品種と同様に透明感のある粳白米になる。
 白米の食味は「ひとめぼれ」より劣り「キヨニシキ」並の“中の上”である。7分搗きによりわずかに紫色を残した米を炊飯すると炊飯米全体が紫色になる。また一般の白米に本系統の玄米または5分搗きの米を5~10%程度混合して炊飯しても色素部分が水に溶け炊飯米全体が紫色を呈し、赤飯のようになる。したがって「奥羽368号」は着色米飯の素材として有用である。
 一方、小粒で糯種の「朝紫」を利用した着色酒(古代酒)が生産されているが、「奥羽368号」はやや大粒の粳種であり、「朝紫」よりも醸造原料として扱いやすいと推定される。


命名登録しようとする理由
 「奥羽368号」と同じく紫黒米特性を有する品種としては「朝紫」が1996年度に命名登録(農林登録)され、着色食品素材として広く普及している。この「朝紫」は着色酒(古代酒)用の原料にも用いられている。しかし、「朝紫」は小粒の糯種であり醸造用原料には適していない。このため、「朝紫」で着色酒を生産している業者からは、着色酒に適した大粒の紫黒米粳品種を育成して欲しい、という要望が出されていた。「奥羽368号」は、やや大粒の紫黒米粳種であり,こうした要望に応えるものであり,試作した結果では良好な着色酒が得られている。また着色米飯については,「朝紫」では混米により赤飯にすると糯性の強い特徴がでるが、「奥羽368号」は粳種のため通常の粳種の食感が得られ、この方面でも有用である。さらに,「奥羽368号」は「朝紫」より10%以上多収であり、収量性も高い。そこで,糯種の「朝紫」とは違った紫黒米利用に応え、新形質米の利用を促進するため、「奥羽368号」を命名登録し、普及を図りたい。


配付しうる種子量
 系統採種(99-3023): 0.5 ㎏, 原原種採種:100 ㎏, 合計 100.5 ㎏


栽培適地
 「あきたこまち」と同じ早生の晩の特性、障害型の冷害に弱い特性からみて、冷害の少ない東北中南部平坦地に適する。


栽培上の注意
1.耐冷性が弱なので冷害常襲地での栽培は避け、低温年の水管理に注意する。
2.いもち耐病性は、真性抵抗性遺伝子“Pi-b”をもつと推定され圃場抵抗性が不明なので、侵害菌の発生に留意し適正防除に務める。


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