奥羽344号の特記すべき特徴
 低アミロース米系統として多収良食味で、冷凍米飯などに適する。


農林登録する理由
 「奥羽344号」と同じく低アミロース特性を有する品種としては「彩」(上川農試)、「ソフト158」(北陸農試)、 「ミルキークイーン」(農研センター)が農林登録されている。しかしこれらは、東北地域では極早生か極晩生の熟期であり、東北地域に適した品種ではない。一方、「奥羽344号」は東北地域に適した熟期であり、かつ民間業者の調査では冷凍米飯などに適するので加工用原料として使用予定となっている。そこで、東北地域で使える加工用の低アミロース米品種として利用できるようにするため農林登録(命名登録)し、普及を図りたい。


来歴
 奥羽344号は、1984年に東北農業試験場栽培第一部(現水田利用部)において、「農林8号」由来の低アミロース系統「74wx2N-1」(農業生物資源研究所育成)の早生、多収化を目標に、本系統を母、「レイメイ」を父として人工交配され、その後代から育成された系統である。1985年にF1個体を圃場で養成した後、1986年は材料数制限のためF2種子を低温貯蔵し、87、88両年にF2,F3,F4集団をガラス室で養成した。1989年に新形質米プロジェクト研究の開始と共に、低アミロース品種の育成のため、本組合せに注目し、本田でF5集団を養成し、個体選抜を行った。選抜個体は上川農試に依頼し、アミロースの検定を行った。そして F6世代以降、系統育種法により選抜、固定を図ってきた。
 1991年には「UY-36」の名で生産力検定試験、特性検定試験を行い、1992年にF8世代で低アミロース系統として「奥羽344号」の系統名を付け、新形質米プロジェクト研究の中で加工、利用適性を検討すると共に、関係県に配布して地方適性を検討してきた。同じ低アミロース系統でこれより早生の「奥羽343号」は本系統の姉妹系統で、ともに1998年にはF13世代となる。


形態的特性
 「奥羽344号」は、移植時の苗丈は「トヨニシキ」や「ヒメノモチ」よりやや長く、葉色はこれらの品種と同じで中位である。
 稈長は「トヨニシキ」や「ヒメノモチ」よりやや長く“長”である。穗数は「トヨニシキ」よりやや少なく、穂長は同程度で、草型は“中間型”である。稈の太さは「トヨニシキ」、「ヒメノモチ」 と同程度の“中”で、稈質は「ヒメノモチ」並の“やや柔”である。成熟期の止葉は立たず、やや下垂する。粒着は「トヨニシキ」、「ヒメノモチ」並の中位で、極少程度に短芒を生じ、ふ先色と穎色は“黄白”で、脱粒性は“難”である。


生態的特性
 「奥羽344号」は出穂期、成熟期とも「トヨニシキ」よりやや早く、育成地では「キヨニシキ」並の中生種である。耐倒伏性は“やや弱”であるが、収量性は「トヨニシキ」と同程度に高い。
 いもち病真性抵抗性遺伝子型は“+”である。圃場抵抗性については葉いもちは「ササニシキ」より強く“中”、穂いもちは「キヨニシキ」より劣るが「ササニシキ」より優り“やや弱”である。白葉枯病抵抗性は“やや弱”で、縞葉枯病には“罹病性”である。耐冷性は「トヨニシキ」、「キヨニシキ」、「ササニシキ」並の“やや弱”である。穂発芽性は「トヨニシキ」並の“やや易”である。


品質・食味・加工特性
 「奥羽344号」の玄米の形状および粒大は“中” で、粒揃いがよく粒重は 「トヨニシキ」、「ヒメノモチ」より大きく、“やや大”である。搗精歩合はやや低く、胚芽はやや落ちにくく残存率はやや高い。
 「奥羽344号」は「74wx2N-1」由来の低アミロース(中間糯)系統であり、一般の粳品種よりはアミロース含量が極めて低く、玄米は白濁し、玄米の白度は高い。アミロース含量は登熟温度により大きく影響され、平年は7~9%であるが、低温年(1993)は13.8%、高温年(1994)は3.1%であった。
 低アミロースのため通常の水量で炊飯すると柔らかくなりすぎる問題や、餅臭のある場合もあるが、炊飯時に水の量を10%程度少なくすると、飯米が適度に固くなり、通常の食用米と同程度の触感が得られる。とくに冷えた状態での食味は、外観と粘りが優れ、良食味の「ひとめぽれ」よりも良い。このことから「奥羽344号」は加工用として、チルド米飯や冷凍米飯に適する。


農林登録しようとする理由
 「奥羽344号」と同じく低アミロース米特性を有する品種としては「彩」(上川農試)、「ソフト158」(北陸農試)、「ミルキークイーン」(農研センター)が農林登録されている。しかし、これらは、東北地域では極早生か極晩生の熟期であり、東北地域に適した品種ではない。一方、「奥羽344号」は熟期が中生であり、収量性も東北南部では多収であり、実用栽培適性を有する。また、民間実需者の評価によれば、本系統を用いた冷凍米飯は耐老化性が安定して高い特性がある。このため、これら民間実需者は本系統の安定した供給を強く要望している。
 以上のことから、本系統を東北地域に普及することで米の用途拡大を図り、安定した米需要を確保する方策として農林登録する必要がある。


(参考) N社の評価

 「奥羽344号」は、1994~1997の試験の結果、他の低アミロース米よりも耐老化性が安定して高く、冷凍米飯を低温解凍した場合の食味低下が少ない。そこで「奥羽344号」を用いた「低温で流通可能な米飯食品およびその製造方法」(特開平9-322725)を開発した。具体的には、数百ha程度作付けして玄米生産を行い、冷凍米飯、チルド米飯の素材に「奥羽344号」を用いる予定である。


配付しうる種子量
 系統採種(UK3025)0.5㎏、一般採種 60kg、合計 60.5㎏


栽培適地
 東北中南部平坦地に適応する。


栽培上の注意
1.いもち病抵抗性、耐冷性とも不十分なので常発地での栽培は避けるほか、防除や低温時の水管理に留意する。
2.稈長が長く耐倒伏性がやや弱いので、多肥栽培は避け、追肥時期にも注意する。
3.登熟温度が27℃以上の高温のときはアミロース含量が低くなり、22℃以下の低温のときは高くなることに留意し、栽培適地を判定する。


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